東京地方裁判所八王子支部 昭和52年(ワ)788号 判決 1978年6月23日
原告
国松正秀
被告
寺島美廣
主文
1 被告は原告に対し、金三〇七万九、七二〇円及びこれに対する昭和四九年九月二九日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決は、原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。
事実
第一申立
一 原告
1 被告は原告に対し、金五四六万七、三八〇円及びこれに対する昭和四九年九月二九日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決及び仮執行の宣言を求める。
二 被告
「原告の請求を棄却する。」との判決を求める。
第二原告の請求の原因
一 交通事故の発生
昭和四九年九月二八日午前七時ころ、東京都東村山市一―五―一三先路上において、原告は普通貨物自動車を運転して青梅方面から新宿方面に進行中前車の停止に伴い一時停車したところ、被告運転の普通乗用自動車(多摩四四す一七三二号)が原告車に追突し、原告は後頭部打撲、頸部捻挫の傷害を受けた。
二 被告の責任
前記事故は被告の車間距離不保持、スピード超過、前方不注視等の過失によつて生じたものであるから、原告の蒙つた損害を賠償する責任がある。
三 原告の損害
原告は前記事故により次の損害を蒙つた。
1 入・通院治療費 金一四〇万三、二〇八円
(内訳)
昭和四九年九月二八日から同年一〇月三一日まで入院、治療した費用金四五万二、四〇〇円
昭和四九年一一月一日から同年一二月二三日まで入院、治療した費用金一三万〇、八四八円
昭和四九年一二月二四日から昭和五〇年九月二六日まで入・通院(入院一四一日、通院四九日)、治療した費用金七五万九、三〇〇円
昭和四九年一一月二九日から同年一二月二三日まで入院、治療した費用金六万〇、六六〇円
2 入院雑費 金一三万六、八〇〇円
前記入院期間二二八日につき一日金六〇〇万円の割合
3 入院付添費用 金一万九、〇〇〇円
昭和四九年九月三〇日から同年一二月五日までの間の付添費用の未払残金
4 通院交通費 金三、九二〇円
昭和五〇年三月二四日から同年五月一八日まで、同年七月八日から同年九月二六日までの間通院実日数四九日につき一日金八〇円の割合
5 休業による損害 金二四〇万円
原告は本件事故当時訴外丸五青果に勤務し、月給一二万円を得ていたが、本件事故による受傷のため事故当日から昭和五一年五月三一日までの間稼働することができず、この間合計金二四〇万円の給料相当の損害を蒙つた。
6 慰謝料 金一九二万一、〇〇〇円
原告は本件事故により約八か月間の入院加療を余儀なくされ、その後脳盪症、頸髄盪症、外傷性頸腕症候群(頭重、頭痛などの症状)等の後遺症で昭和五〇年九月二六日まで通院をし、家庭の生活は生活保護を受ける状態に陥り、原告は現在も前記後遺症に脳まされている。この精神的苦痛を慰謝するには金一九二万一、〇〇〇円をもつてするのが相当である。
7 弁護士費用 金九二万六、〇〇〇円
8 以上の損害合計 金六八〇万九、九二八円
9 自賠責保険給付額 金一三四万二、五四八円
10 残損害 金五四六万七、三八〇円
四 よつて、原告は被告に対し、金五四六万七、三八〇円及びこれに対する本件事故の日の翌日である昭和四九年九月二九日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第三被告の答弁
請求原因一、二の項の事実は認める。同三の項のうち3、9及び6のうち、原告がその主張の後遺症のためその期間通院したことは認める。その余の事実は否認する。
第四証拠関係〔略〕
理由
一 請求原因一、二の各項の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、損害額について検討する。
1 入・通院治療費 金一三四万二、五四八円
いずれも成立に争いのない甲五号証、一一号証から一三号証まで及び原告本人尋問の結果を総合すると、原告は本件事故による受傷のため訴外久半川病院に事故当日から昭和五〇年九月二六日までの間入院二二八日、通院四九日間それぞれ加療を受け、治療費合計金一三四万二、五四八円を要したことが認められ、この認定に反する証拠は存しない。もつとも、原告は昭和四九年一一月二九日から同年一二月二三日まで二五日間入院しこの間金六万〇、六六〇円を要した旨主張し、これに添う甲五号証があるが、この期間分は既に前記認定に供した甲一三号証記載の昭和四九年一一月一日から同年一二月二三日までの分に含まれるものと認められるから、これを採用することはできない。
2 入院雑費 金一三万六、八〇〇円
前記入院期間二二八日につき一日金六〇〇円相当の雑費と認めるのが相当である。
3 入院付添費用残 金一万九、〇〇〇円
この事実は当事者間に争いがない。
4 通院交通費 金三、九二〇円
前記通院期間四九日につき原告本人尋問の結果によつて認められる西武多摩線武蔵大和駅から萩山駅までの区間往復八〇円の割合によるものと認めることができる。
5 休業損害 金一六二万円
原告本人尋問の結果とこれによりいずれも真正に成立したものと認められる甲六号証の一、二、三、七号証、四号証を総合すると、原告は本件事故当時訴外「走る船寿司」経営者船橋誠志の経営する丸五青果の店員として稼働し、月額金一二万円の給与所得があつたこと、本件事故のため昭和五一年五月末日まで稼働することができず、この間合計金二四〇万円の給与所得を失い、このため生活ができないところから昭和四九年一一月から実家の秋田県本庄市に帰つた昭和五〇年一二月の前月一一月まで毎月金六万円(計金七八万円)の生活保護を受けたものであることが認められ、この認定に反する証拠は存しない。そうだとすると、原告の受給した公的扶養である前認定の生活保護給付は生活保護法六三条による返還義務を負うものでもなく、また現に返還請求を受けているものでもないから本件事故によつて利益を受けたものというべく、この受給額をそのまま原告のもとに保留させながら逸失利益額を請求させることは損害賠償法を支配する公平の観念に反するから、原告の得た前記生活保護としての受給額金七八万円は原告の前記逸失利益額から控除するのが相当である。そうすると、原告の逸失利益額は金一六二万円となること計算上明白である。
6 慰謝料 金一〇〇万円
前記甲四号証と証人熊倉稔の証言及び原告本人尋問の結果を総合すると、原告は退院後の昭和五〇年七月二一日現在で頭重感、頸部緊張感時には頭痛を、加えて両肩胛部緊張感を訴えていたが、これは頸椎捻挫に起因する自律神経失調様症状を呈したものと診断され、現在では原告は朝がきついと訴える状況にあり一種の神経症と目されるものであることが認められ、これに原告の前記入・通院の経違、経過その他原告の年齢(事故当時二七歳)、家族(妻、子供二名)、現在も事故当時と同程度の収入を得ていることその他諸般の事情を勘案すると、原告の精神的苦痛を慰謝するには金一〇〇万円をもつてするのが相当である。
7 損害の填補
原告が自賠責保険から治療費として金一三四万二、五四八円を受給したことは当事者間に争いがないから、前記損害合計からこれを控除すれば金二七七万九、七二〇円となる。
8 弁護士費用相当損害 金三〇万円
原告の本件事故による前記認容損害額及び本訴の提起遂行の難易等を考慮すれば、原告の蒙つた弁護士費用相当の損害は金三〇万円と認めるのが相当である。
9 以上の損害金合計三〇七万九、七二〇円
三 よつて、原告の被告に対する本訴請求は金三〇七万九、七二〇円及びこれに対する本件事故後である昭和四九年九月二九日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 野澤明)